リスと小鳥

ある森に何の取り柄ない
小鳥がいました。

毛並みも悪くみんなのように
上手に空も飛べず食べ物も
うまく取れません。
何をしても失敗ばかり・・
ですからいつも周りの仲間にも
迷惑をかけてばかりでした。

「お前はいつもだらしないな」
「もう少ししっかりしなよ」
「あんたにはがっかりだわ」
とそういつも言われてばかり
時には呆れて笑われることもあります。
ですから友達もできませんでした。

「僕は何やってもダメだなぁ・・」
などと毎日毎日つぶやきながらうちに
帰っていきます。

ある日いつも通り
「今日もみんなに迷惑かけてしまった」
「この先僕はどうしたらいいんだろう」
とつぶやきながらうちに帰る途中
涙が止まらなくなったので、ある木の
枝で休むことにしました。

その日は月がとてもキレイな夜でした
月がキレイなほどなぜか淋しくて
悲しくてたまらなくなり声を出して
泣いていました。

すると
「誰?そこで大きな声で
歌っているのは?」
と声が聞こえました。

小鳥が振り向くと
そこにはリスのおばさんがいました。

するとリスのおばさんは
小鳥の顔をみて
「おや泣いているのかい?」
と声をかけてきました。
「はい・・・」
と小さな声で小鳥はかえしました。

リスのおばさんは
「ごめんよあんまり大きないい声が
聞こえたもので歌っているのだと
勘違いしてしまった許しておくれ」
小鳥は小さく首を横にふり
「いいえこちらこそごめんなさい」

「どうして泣いているの?
私で良ければ話してちょうだい」
リスのおばさんがそう言うと
小鳥は涙のわけをリスの
おばさんに話しました。

「そうかいそれはツラい
思いをしたんだね」
と言うと
「でも私にはあなたが何にもできないよう
には感じないよ」
と続けました。

「わたしはあなたの泣き声が
とても心地よく感じたよ
あなたの声が大好きになったよ」
と小鳥に伝えました。

「もし良ければ帰りにここに
よって少しだけでも歌を
聞かせておくれ」

小鳥は思いもよらない言葉に
びっくりしました。
「こんな僕でよければ・・」
と返事をしました。

「まあうれしい!待ってるわね」
と約束してその夜は別れました。

その帰り道小鳥は少し気持ちが晴れた
のか涙も消えていつもより上手に
飛べているように感じました。

そして次の夜
「待ってたわよーさあさあ
何でもいいから歌って歌って!」
とリスのおばさんは言いました。

小鳥は自分の声がいいとか
歌が上手いと感じたことは
ありませんでしたが
おばさんの声に答えるため
勇気を出して歌いました。

そしてその声はちいさく
森に静かに響きました。

誰が聞いても美しい声?なのかは
わかりませんがその声は
リスのおばさんの心には響きました。

「あなたの声はとてもいい声ね
なんだか涙が出てくる・・ありがとう」

それを聞いた小鳥は嬉しくなり
「明日も来ていいですか?」
と自ら申しでました。
こんなことははじめてでした。

「もちろんよ。お願いするわ」

そして次の日も
「あなたの歌を聞くと元気もでるわ
明日から頑張らなきゃね」

また次の日も
「今夜もありがとう。嬉しいわ
毎日くるのが楽しみだわ」

と毎晩リスのおばさんが歌う度に
褒めてくれるので小鳥も楽しくて
嬉しくて仕方がありません。

昼間どんなに失敗してもどんなに
悔しい思いをしてもリスのおばさん
だけは褒めてくれるので毎晩毎晩
雨の日も雪の日も冷たい風の日も
おばさんのところへ行って歌いました。
長い時は数時間も歌うこともありました。
それでもおばさんは毎晩手をたたいて
喜んでくれました。

そしてある晩・・
「私はあなたの声が大好きよ。
私だけ独り占めはもったいないわ
今度みんなに聞かせてあげたら」
と言いました。

小鳥は最初は戸惑いましたがおばさんが
そう言うのでおばさんの言う通りに
しようと心に決めました。

「今度フクロウの森で動物たちの
夜会があるわ。そこであなたの
歌を聞いてもらいましょう」

そうして夜会の日
たくさんの動物たちが集まり
司会のフクロウさんが
「今夜はリスのおばさんの紹介で
小鳥が歌を披露してくれます」
と紹介がありました。

小鳥の体は震えていました。
リスのおばさんに毎日褒められ
少しばかりの自信はありましたが
フクロウの森には初めてきたし
初めて見る動物ばかりなのです。
もちろん知り合いも誰もいません。

何をしても失敗ばかりする
自分がもしここでもまた
失敗したら・・・
それを考えたらこわくてこわくて
逃げだしたくて逃げだしたくて
たまりません。

「大丈夫。いつも通り歌えばいいの
あなたの歌を聞かせてちょうだい」

リスのおばさんが言いました。
それを聞いた小鳥は
「そうだ。たとえ失敗したって
僕の歌を喜んでくれるおばさんが
いるからそれでいいじゃないか!」

そう心に言い聞かせると少し体が
かるくなった気がしました。

そして・・

フクロウの森に小鳥の歌声が
響きました。

誰が聞いても美しい歌声かは
わかりません
誰の心にも響いた歌声かは
わかりません

そんなことよりリスのおばさん
だけに褒められたこと
それだけでいいと
感じながら歌いました。

やがて歌が終わり辺りが
静まり帰った瞬間・・・

大きな拍手が鳴り響き渡りました。

「いいぞ!いいぞ!」
「よく歌った!」「感動したぞ!」
「小さな体でよく声が出てた!」
「上手いぞ上手いぞ!」

と声が飛び交う中
小鳥は何が起こったか理解できず
となりをみるとリスのおばさんが
笑顔で拍手を一番大きな拍手を
してくれてました。

「うちの森でも歌ってー」
「またここで歌ってー」
「もっと聞かせてよー」
「今度はいつ歌うんだい?」

などの声もあがり小鳥は
ただただ顔を真っ赤にし
うつむいているばかりでした。

それからと言うもの小鳥の
生活はあわただしくなりました。
あっちの森で歌って欲しい
こっちの森で歌って欲しい
とたくさん声をかけられ
色んなところに行き歌をうたいました。
リスのおばさんと一緒に。

その噂が鳥の仲間たちにも広がり
「噂をきいたよ」「上手いんだって?」
「たくさんの動物の前で歌うなんて
見直したよ」「今度聞かせておくれよ」
と声をかけてくれるようになりました。

だけどキレイに飛んだり食べ物を上手く
取れないのは変わりはしませんが
少しだけ仲間が今までより優しくなった
気がしたり自分にちょっぴり自信が
ついたのか物事を前向きに考えるように
なりました。

そんな生活が続いたある日
隣村のから歌のお願いがあり
いつものようにリスのおばさんを
誘いにうちにいくと

「あれ変だなぁ・・」

うちにいません。
こんなことは初めてです。

「おばさーん!おばさーん!」

と大きな声で必死になって
探しますがいません。

歌の時間も迫ってきたので
心配ですが隣村へ独りで
飛んでいきました。

そして歌も終わり
急いでおばさんを探しに
帰りました。心配で心配で
いてもたってもいられません。

もう夜も遅くなり辺りも真っ暗
それでも森の中を
「リスのおばさーん!おばさーん!」
と声が枯れるほど一晩中探しました。

やがて朝になりました。

小鳥はおばさんのうちに戻り
「もしかすると帰ってくるかも・・」
と思い疲れ果てて寝てしまいました。

それから何時間か経って
小鳥は目を覚ましました。

ですがおばさんは帰ってきてません。

それから何日も何日もおばさんの家で
待ちますが帰ってきません。

小鳥は大声で泣きました。
今まで聞いたことのないくらいの
大声で泣きました。

さびしくてさびしくて毎日毎日
泣き続けました。

そしてある時
また歌をうたって欲しいと
フクロウさんからお願いが
ありました。

小鳥は涙で顔がくしゃくしゃ
声も枯れ泣き疲れて体も
ボロボロで歌う気分では
ありませんでした。

ですがもしかしたら僕が歌えば
声が届いて戻ってくるかも
知れないと思いフクロウの森へ
勢いよく飛んで行きいつものように
陽気な歌や面白い歌、
時には悲しい歌も唄い、その後も
色んな森の色んな動物と一緒に
歌を楽しみました。

月日が流れ
あれからもう二度とリスのおばさんに
は帰って来ることはありませんでした。

小鳥は相変わらずみんなと一緒に歌って
楽しんでます。リスのおばさんには
会えなくなったけど小鳥はいつまでも
リスのおばさんのことは絶対忘れません。

そして時々感じるのです。
歌をうたっているみんなの輪の中に
リスのおばさんが最高の笑顔で
誰よりも大きな手拍子をして
私を見守ってくれているのを

だってあなたは私の歌を
一番最初に喜んでくれたんだから